けっしょうのこと

久しぶりに小説を読みました。
本当に、ふと目に止まっただけの本だったのに、
今の私にちょうどよい本だったと、読み終わってからびっくりしました。

小川洋子
「密やかな結晶」

記憶が消えて行く島の物語。
バラに帽子に木の実に
左足に右腕に
次々に記憶を、そのものについての意識を、なくしていく元小説家に自分を重ねて、
忙しいというのは心を亡くすことだ、という「心」はこの小説でいう「記憶」なのではないかと思ったり。
でも記憶を無くせないお母さんや編集者の微かな寂しさにも共感できていて、まだ私の心はちゃんとあるのだと思ったり。

乾いたところに、乾いた風が吹いて、乾いてるなあと思えたから、まだ少しは潤いがあったことに気付かされたような、
私の中でタイムリーな本でした。